思い出話⑥ クレモナ製作学校、一般科目編

クレモナ製作学校の「思い出話」、前回の工房での実習編に続き、今回は一般科目の授業について、ご紹介します。

前回は3年生の時間割をご紹介しましたが、今回は5年生の時のものです。

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工房での楽器製作が11時間、修理とニスの授業が2時間ずつ、そしてラッザリ師匠のセットアップ授業が2時間と、楽器製作に関する授業が17時間です。

一方で、イタリア語が6時間、音楽史が3時間、数学が3時間、英語が3時間、音響物理が3時間、そして体育が2時間と、一般科目は20時間となります。

以上の時間割をこなしながら、5年生は「卒論」も並行して進めなければならず、また、6月には卒業試験も控えているので、なかなか慌ただしい日々となりました。
また、午後の時間には、ラッザリ師匠の工房に通っていました。

こちらは、当時使っていたノートです。
イタリアの大手スーパーの、ESSELUNGAが発売していた、駄洒落シリーズのノートです。

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私は、この、ツタン・パーネンとジョン・レモンがお気に入りでした(笑)

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さて、授業の内容ですが、数学も英語も物理も日本の高校で習ったことでしたが、20年ぶりで記憶が曖昧でしたし、なによりも、全ての説明がイタリア語ですので、例えば方程式の解き方も、イタリア語での説明に付いていくのが大変でした。

これは、「解が存在しない方程式」の説明を、イタリア語で書いた部分です。

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こちらは、座標の問題についての説明です。

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音響物理の授業での、音の波形を説明した文章です。

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今見ても、頭が痛くなります。

でも、私は発想を転換して、これは数学や物理の授業としてではなく、ものごとをイタリア語で説明するための修行と考え、時間を無駄にしないように授業に取り組みました。

ですが、楽器製作を勉強するためにイタリアに来ているのに、多くの一般科目の勉強に時間を取られている状況は、やはりストレスを感じていたのだと思います。

ノートには、それが「落書き」として残っています。
音楽史の授業なのに、ウズマキやアーチのデザインを描いていたり、、

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最終的には、完全に精神が壊れてますね。。
無限にウズを巻いてます(笑)

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ですが、私はこの一般科目の授業を、病気で欠席した以外、100%の出席率で3年間、通い続けました。
学生によっては、一般科目を「時間の無駄」として、落第ギリギリの出席率で上手くこなしている人もいましたが、私は、そういう中途半端なことをすると、自分自身のテンションが下がってしまい、肝心の楽器製作にも悪影響が出そうな気がして、全ての科目で満点を取ることに集中していました。

結果、5年生が終わる時点で、私は最優秀の生徒として認められることになり、卒業試験の成績と合わせて、いわゆる首席として表彰されることとなりました。
授賞式での写真です。

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首席となるためには、工房での実習はもちろんですが、全ての科目で10点満点を獲得する必要があるのですが、説明問題などは、どれだけ頑張っても、イタリア語がおぼつかない日本人には難しいことですし、特に、イタリア語の試験に関しては、客観的に見て、10点はあり得ないことでしたが、私の授業態度や頑張りを見て、先生たちが後押しをしてくれたのだと思います。

こちらが、卒業証書です。

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最終成績の欄に、「CENTO」と書かれています。
これは、100点満点という意味で、この年度の卒業生では、私を含めて2人だけがCENTOでした。

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後日、マルキ先生とお会いした時に、先生たちの間で「菊田にはCENTOを取らせてあげよう」という会話がなされたことを伺い、胸が熱くなりました。

私にとって、人生二度目の高校生活となったクレモナ製作学校でしたが、良い先生や仲間と出会い、苦しくも充実した3年間を過ごすことができ、人生の財産となった気がしています。

ちなみに、現在の製作学校の規則では、40歳の入学は認められておらず、そういう意味でも、当時の私は幸運に恵まれていたのだと、あらためて思います。

今は校舎も移転してしまい、学校のシステムも変わり、日本人留学生も少なくなってしまって、寂しい状況となりましたが、これからも、この学校の卒業生が、良い製作者になって、弦楽器業界を支えていって欲しいと願っています。

製作学校での最後の作品のチェロを持って、マルキ先生とともに。

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今回は自慢話のようなブログで、失礼しました。

さて、製作中のヴァイオリンのご紹介も少し。

アーチが終わり、厚み出し作業です。
力仕事ですが、仕上がり厚さまで1ミリくらいのところまで丸ノミで削りますので、慎重さも要求されます。

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ボディを閉じる前の最終チェックは、いつも疑心暗鬼になり、やり残したことが無いか、心配になります。

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このラベルを使い始めてから、20年が過ぎました。
130台目が、そろそろ見えてきましたが、まだまだ人生目標の200台には遠い道のりです。
でも、急がずに、一台一台を丁寧に仕上げていくのみです。

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秋に向けて、少し慌ただしくなってくるクレモナですが、猫たちは平和に暮らしております。

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伸びてます。

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季節の変わり目ですね、皆様も体調維持にはお気をつけて、良い季節をお迎えください。

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by violino45 | 2022-09-17 14:57 | 思い出話 | Comments(2)

Commented by Junjun at 2022-09-20 07:50 x
菊田さん、こんにちは

思い出話、製作学校一般科目編のアップ有難うございます。

高校生の科目を、卒業し何年も経ち しかもイタリア語で習う事は、想像以上に大変だし、ストレスだったと思います。それを発想の転換により、やり遂げた事、、また主席の卒業、本当にすごい偉業です!そして、そういう菊田さんを
先生達が、ちゃんと見守ってくれていたのも
素晴らしいです。

人は、全力で走り続けるのは
本当に大変ですが、それを経験した事は
必ず、のちの人生に役立つ、、それを
示してくださった、投稿に感謝いたします。

大変な時、、この クスッとする
ノートさん。めちゃナイスですね👍

いつでも、真剣に物事、仕事、そして人々に向き合う菊田さんは、凄いです!

新しい楽器の製作アップも
時間の流れが対比され、とても素敵です。

そして沢山可愛い、家族の猫さん。
ほっこりです。

今週は、クレモナムジカですね!
お忙しい中と存じますが、体調には
くれぐれも気をつけて、お過ごしくださいませ。

Commented by 菊田 at 2022-09-20 17:29 x
Junjunさん、こんにちは。

個人的な記録ブログでしたが(笑)、コメントありがとうございました。

私の場合、40歳で人生の転機を迎え、それはけっして若いとは言えませんでしたが、それまでの20年間の放送局での経験が、ヴァイオリン製作においても、また一般科目の授業においても活かせる場面が多かった気がしています。

おそらく、積み重ねてきた経験値と、発揮できるエネルギーのバランスがうまく取れていたタイミングに留学できたことが、結果的に、良い成果となった要因のひとつだったのだと、振り返ってみて思います。

そして、そのタイミングに、マルキ先生のクラスに入ることができたこと、天野さんや高橋さんのような、生涯のライバルとなる存在が在学していたことは、非常に幸運なことでした。

いずれにしても、毎日を真剣に生きていれば、その経験は無駄になることはなく、必ずいつかは活きるのだと、今の自分にもあらためて言い聞かせたいと思い、このようなブログの記事になりました。

クレモナムジカ、今年は日本からも多くの来客がありそうで、久しぶりに賑やかなクレモナになると予想しています。

またブログでもご紹介させていただきますね。




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