次回作ヴァイオリンは、「カノン砲」モデル。

次回作のヴァイオリンは、お客様のご要望にお応えして、ガルネリの「カノン砲」(カノーネ)モデルで製作しています。

有名な楽器をモデルとして製作する時は、製作途中にイメージを確認できるように、部屋にポスターを貼ります。
このポスターは、20年間、何度も開いたり閉じたりしていますので、かなり傷んでいて、テープで補修してます。

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この、「1742年 イル・カノーネ」は、ガルネリ・デル・ジェズの中で最も有名なヴァイオリンの一つです。

ニコロ・パガニーニの生涯の愛器で、大砲(カノン砲)という愛称で呼び、自分の死後は誰にも弾かせないことを条件に、ジェノバ市に寄贈されたヴァイオリンとして有名ですが、その迫力のある外観とともに、音響的にも優れたモデルのため、後年の製作家が数多くコピーモデルを製作しています。

私自身も、クレモナに来る前年の2000年、そして2007年にも製作しました。

少し昔話になりますが、1999年にクレモナに初めて旅行した時に、ジオ・バッタ・モラッシー先生にお会いしたのですが、その時に、「クレモナ派の楽器を勉強するには、ストラディバリモデルだけを作っていてはダメで、アマティやガルネリも研究すべき。」と言われたのでした。

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1999年の夏、モラッシー工房にて。


その時は、その言葉の意味がピンと来なかったのですが、帰国してからずっと気になっていて、翌2000年、ガルネリモデルに挑戦しました。
その頃は知識もなく、「ガルネリと言えばカノン砲」というイメージで、前述のポスターを手に入れて、手探りで製作を進めました。

製作を開始してすぐに、繊細なストラディバリとは違う、荒々しいガルネリのスタイルに戸惑いましたが、進めるうちに、その理に適ったシルエットやアーチの造形の魅力に惹きつけられる自分に気が付きました。
また、クレモナ旅行を通じて得られた知識や経験が、自然に楽器製作に活かされていくのを感じ、それまでに製作していたヴァイオリンとは一味違う楽器が仕上がったように思えました。

とは言え、その時点で、モラッシー先生のお言葉を深く理解できていたわけではありませんが、、2000年の弦楽器フェアのアマチュア部門に出展して、高評価を得られたこともあって、自分の中で、クレモナに留学しても大丈夫かも?と思えるきっかけになったのは事実です。

そして、その年の年末に、クレモナの製作学校の願書を提出し、2001年6月には入学試験を受けることになるのですから、1999年にモラッシー先生に出会い、ガルネリモデルの製作を勧められて挑戦したことが、クレモナ留学への流れを加速したことは間違いがなく、そういう意味でも、カノン砲は自分の中で大切なモデルとなっています。

今までに製作した2台のカノン砲モデルの写真をご紹介します。(表板だけですが)
こちらは、2000年に製作したカノン砲です。

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そして、こちらが2007年に製作したカノン砲です。

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2007年のほうは、お客様のご要望で、ニスをかなり赤く仕上げていますので、だいぶ印象が違いますね。

さて、前置きが長くなりましたが、実際の製作の様子を少し写真でご紹介します。


内型は、2007年に製作した時のものを使います。

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センター部分の横板から、曲げていきます。

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いつものストラドモデルとは、カーブが微妙に違いますので、曲げる時に少し戸惑いますが、無事に貼りつきました。

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全ての横板が貼りつきました。

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ここでアウトラインの比較です。
左がストラディバリ1705モデル、右がカノン砲モデルです。
カノン砲モデルのほうが、全体に丸みを帯びているのが分かります。

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重ねて見ると、その違いが分かります。
上がカノン砲です。

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下のストラドモデルのほうが、張り出しているのが分かります。

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本物のカノン砲は、裏板のトラ杢が左右に向かって上がっていますので、コピーモデルを製作する場合は、それを模することが多いです。

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横板のアウトラインを裏板にトレースして、ヴァイオリンの形をデザインします。

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デザインが仕上がりました。

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切り抜いたら、丸のみで荒削りします。

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今まで何度もご紹介した工程ですが、この時点で、全体的なアーチのバランスを取りながら荒削りすることが重要です。

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楽器は違いますが、昨年、この作業を収録した動画です。
ひたすら荒削りしている動画ですが、よろしければ御覧ください。




長文ご覧いただき、ありがとうございます。

クレモナも、暑い日が続いております。
ちび丸は、洗面台の中で、ご満悦です。
ひんやりして、快適のようです。

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ビビ丸は、ジャンプできなくて登れないので、うらやましそうです。

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by violino45 | 2021-07-02 16:59 | 製作記 | Comments(5)

Commented at 2021-07-02 22:37
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by Junjun at 2021-07-03 06:37 x


菊田さん、こんにちは
カノン砲モデルの製作アップ有難うございます

ガルネリと言ったらカノン砲、、との事。
わかりやすい説明、また菊田さんと、このモデルとのエピソードを教えてくださって、また大切なお写真のアップも有難うございます。

長く(笑笑)生きていると、色々なアドバイスを受ける事があります。その中で、ずーっと心に残るっていくつかあって、その意味の捉え方が少しづつわかってきたり、また
わからなかったり。

人はずーっとこの世に存在は出来ないけど
言葉は人の心に残って、その人の生き方の方向を導いてくれると、感じました。
人と人との出会いって、このような世の中になり、改めてその大切さを感じます。

私はヴァイオリンを通して、菊田さんの存在を知ったお陰で沢山の知らない事を学びました。それは楽器製作の話から、それを幹に様々な方向へ広がっていきました。今回もストラドとの比較など含めてわかりやすく説明してくだって感謝しています。

動画のアップ、宮地楽器小金井さんのイベントで拝見したものでしょうか。
リズムカルな削って行く音が、まるで
時を刻む時計の振り子の音みたいで
心地よいです。それは、心臓の鼓動にも感じられ、照明の具合も 重なり
特別な世界のように思えました。

クレモナは熱い夏になってきたのですね。
ちび丸さん、
洗面台に乗る、、なかなか良いアイデアですね。ビビ丸さんも、涼しいお気に入りの場所を見つけそうですね。^_^

では、お忙しい中とは存じますが呉々もお身体にご自愛くださいますよう、心から
お祈りしております。^_^
Commented by 菊田 at 2021-07-03 14:26 x
Junjunさん、こんにちは。

ほんとにそうですね、人生の節目節目では、いろいろな人との出会いがあり、様々な影響を受けるものですが、かけていただいた言葉の一つ一つが、その場の状況とともに鮮明に心に残り、数年後、または数十年後に、すごく重要な意味を持ってくることがありますね。

私自身、製作活動している最中は、常に、モラッシー先生やマルキ先生、そしてラザーリ師匠にかけていただいた言葉が反復して渦巻いていて、それは、答えが永久に出ない問いであることも多いですが、常に、光明に導かれているような感じです。

本文で書いた、アマティやガルネリを勉強することの意味も、分かっているようで、まだまだ分かっていないような気がしていますが、今回、14年ぶりにカノン砲を製作する機会をいただけたことで、あらためて、その問いに向き合うことができるのは嬉しいことです。

動画は、昨年の12月にご覧いただいたものに、英語字幕を追加したバージョンです。

私自身、こうして、字幕として言葉を刻んでおくことで、製作家として大切な部分を忘れないように、自戒の意味も含めて、動画をアップしているようなところもありますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

早いもので、ことしも7月が来てしまいましたね。
暑い日が続きますが、引き続き、ご自愛くださいませ。

Commented by at 2021-09-06 23:11 x
有り難うございます。大変な作業ですね。
自分が大久保先生の下で作っているバイオリンは、いろいろあって、まだ削りに入っていません。
参考にして頑張りたいと思います。
Commented by 菊田 at 2021-09-07 02:56 x
雪さん、こんにちは。

コメントありがとうございます。
少しでもご参考になりましたら、嬉しいです。

雪さんの作業も、順調に進まれることを祈っております。

私も、良い楽器の完成を目指して、じっくり取り組んでいきたいと思っております。
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