ストラド クレモネーゼ ”1715” モデルの製作

2019年、2台目となるヴァイオリンは、ストラディバリの、いわゆる黄金期とされる1715年に製作された「クレモネーゼ」です。

おそらく、世界で最も有名なストラディヴァリのヴァイオリンではないかと思います。
過去に、様々なポスターや書籍で紹介されたきた楽器ですが、私が以前購入した、「Strumenti di Antonio Stradivari」にも原寸大で記載されています。

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実物は、もちろんクレモナのヴァイオリン博物館に展示されています。

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新作ヴァイオリンのモデルとしても人気がある楽器なのですが、私自身、クレモナに留学した2001年以来、初めて製作するモデルとなります。

理由はいろいろあるのですが、一番大きい理由は、2003年にラザーリ師匠に弟子入りして以来、師匠から譲っていただいた1705年モデルを追求したいという思いから、積極的に他のモデルを製作しなかったことと、コンクールの受賞などの経緯もあり、1705年モデルが最も得意なモデルとなったことだと思います。

一度だけ、お客様のご要望で1707年のカテドラル・モデルを製作したことがあり、結果も良かったのですが、定番のモデルのヴァリエーションとして継続して製作するには年代が近すぎることから、その後は製作しておりません。

実は、クレモネーゼ・モデルは、2010年に、高橋明さん、天野年員さんとともに、宮地楽器さんとのコラボレーションという形で共同製作楽器として製作したことがあります。(私は裏板とニスを担当しました)

その時に、高橋明さんがCADで設計図を作成されたので、今回は、その設計図を使わせていただくことにしました。
高橋さん、ありがとうございました。

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設計図を元に、私なりのアレンジを加えて製作した内型です。

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内型にブロック材を貼り付けて、横板を曲げる作業に入ります。

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Cの部分を貼り付けた状態です。

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横板を貼り終わり、やっとヴァイオリンの形になりました。
新しい内型の場合、計算通りに目的のモデルの形になるかどうか、製作してみないと分からない部分もあるので、いろいろ心配ではあるのですが、ここまでくれば、少し安心です。

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横板の形をもとに、裏板と表板を切り出していきます。

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そして、アーチ整形は、丸ノミでの荒削りの作業から始まります。
同じストラディバリのモデルでも、1705年と1715年では、微妙なカーブの違いと、上部、C部、下部のプロポーションが違うので、荒削りの作業から、アーチの見え方が微妙に異なり、いつもより慎重に削らないと失敗する危険があります。

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ミニカンナの作業でも、アーチの完成形のイメージがいつもと異なるので、いつもより時間をかけて作業をすることになります。

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スクレーパーで、一応の仕上げとなりますが、一日経過するとまた見た印象が変わってくるので、裏側を削って厚み出しをする段階になってからも、微妙に修正しながら仕上げていきます。

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とりあえずの仕上がりです。
モデルはクレモネーゼですが、当然、使用している木材は違いますので、オリジナルのコピーを目指すのではなく、この裏板の特性に見合った形を目指して仕上げていきます。

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いろいろ悩みますが、音響的には、弦を張って音を出すまでは結果を知ることができない、気長な仕事になりますので、経験上、アーチを削っている間は、どちらかというと見た目の美しさを目指して集中するほうが、結果的には良い楽器として仕上がるような気がしています。

by violino45 | 2019-02-15 06:44 | 製作記 | Comments(4)

Commented by junjun at 2019-02-15 13:37 x
菊田さん、クレモネーゼモデルの
製作アップ有難うございます!

7年前このブログをきっかけに、全く知識がなかった私がバイオリンに興味を持ち、
ストラディバリ に色々な名前の楽器があると知り、楽しみが広がった事、いつも感謝しています。

同じストラディバリ の楽器も 形やカーブ変えているのですね。。今回の文章を拝読して
わかりました。

前回のモデルから、何を考えて どこを変えて、、、どんな思いを持ち 製作されたのか、
など 違う方向からの楽器への興味も感じました。
楽器作りって、人が色々考えて
大切に作られているんだなと、改めてわかりました。

菊田さんの、製作者さんサイドからの
説明は、楽器への思いの新しい世界が広がり
美しい写真をみていると、本当にワクワクします。

これからも、大切に作られた楽器を、私も大切にしていきたいと思います。

二月も半ばになりました。まだまだ
寒い日々ですが、呉々もお身体ご自愛くださいませ。

Commented by 菊田 at 2019-02-16 06:01 x
Junjunさん、こんにちは。
私のブログをご覧になって、楽器へのご興味が広がったのでしたら、とても嬉しいです。

このブログに書いている内容は、かなりマニアックとも言えますので、一般の音楽愛好家の皆様にどれだけご理解いただいているのか分からないのですが^^、でも、興味を持っていただけるきっかけになれば、製作家として、とても喜ばしいことと思っております。

現実的には、ストラディバリとアマティ、ガルネリの違い程度でしたら、楽器を見慣れてくれば判別は難しくないのですが、今回のような、同じストラディバリ同士で、10年くらいの差の場合、専門的に研究した人でないと、見分けるのは難しいかもしれません。

ですが、製作者にとっては、その違いはとても大きくて、製作する際には、とても悩んでしまうくらいなのです。

私には奥歯と親知らずの見分けがつきませんが、歯医者さんには一目瞭然という感じに近いでしょうか、、^^。

いつも丁寧にご感想をいただき、ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。


Commented by parnassus at 2019-02-22 21:26
菊田師匠、こんにちは。
クレモネーゼ型が今回初めて、とは正直意外でした。そうでしたっけ?って感じ。
1705年モデルと比較しても、製作者視点では、そんなにデリケートな違いを感じながら、作られているのですね。
どんな風に違いが産まれるのか、その辺りも注目しつつ、出来上がりを楽しみにしております。
クレモネーゼ型なればこそ、こんな風に工夫した、ということなどあれば、ぜひご説明があるとありがたいと思います。
まだ寒き折、ご自愛くださいませ。
Commented by 菊田 at 2019-02-23 07:13 x
たにつちさん、こんにちは。
クレモネーゼは、たにつちさんにもご覧いただいた、日本での修業時代の最後に製作したヴァイオリン以来になるのです。
いつもの、1705年モデルとの違いは、なかなか明確に説明するのは難しいのですが、ホワイトで完成したら、その違いをお伝えできればと思っております。
それにしても、A.Stradivariがクレモネーゼを製作した1715年には70歳ぐらいだったこと、そして亡くなる93歳まで、さらに改良を重ねていったことを思うと、ヴァイオリン製作というのは本当に奥の深い世界だとあらためて思います。
私自身、その真髄にどの程度まで近づけるのか、見当もつかない遠い道のりであることは明かなのですが、クレモナの地で、いましばらく精進していきたいと思っております。
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