マエストロ・モラッシー氏との思い出。
前回の投稿から、ずいぶん時間が空いてしまいました。
2月の終わりに、現代イタリアを代表するマエストロ、ジオ・バッタ・モラッシー氏が永眠され、3月3日に葬儀が行われました。
クレモナ全体が悲しみに沈んだことは言うまでもありませんが、私自身も、心に大きな穴が空いたように感じ、なかなか元の日常には戻れない日々でしたが、逝去されてから3週間近く過ぎて、少し落ちついてきました。
モラッシー氏の偉大な功績につきましては、私が語るには畏れ多すぎますので、ブログで触れることはご遠慮いたしますが、私自身、ヴァイオリン製作を始めた20年前から、言葉では言い尽くせないぐらいの影響を受けていたことを、今回、あらためて思うこととなりました。
現役時代に工房で仕事をされていた頃は、楽器が完成すると見ていただき、いろいろご指導くださいました。
学生時代に、仕上げを終えたつもりのホワイトヴァイオリンを持参したら、いきなり、ここがダメだと、大きなヤスリでガリガリと削られたことも、今となっては懐かしい思い出です。
思い出は尽きませんが、いくつか、モラッシーさんと写っている貴重な写真がありますので、ご紹介させていただきます。
1枚目は、まだ日本でサラリーマンとして働きながら楽器を製作していた頃、クレモナへの憧れが抑えきれず、初めてクレモナに来た時の写真です。
1999年の夏ですが、モラッシーさんは現役バリバリで、それこそ雲の上の、そのまた上の存在ではありましたが、思い切って訪ねてみたら、とても親切に応対していただき、感激している私です。
私はまだ38歳、、、息子のシメオネさん、弟子のステファーニャさんも、若いですね。
この年にクレモナを初めて訪れて、もしかしたら、自分もこの場所で楽器作りをしても大丈夫ではないか?と思った(思ってしまった)きっかけが、この、にこやかに迎えていただいたマエストロとの出会いだったのかもしれません。
でも、この2年後の夏に、クレモナの製作学校の入学試験を受けにくることになるとは、まだまだ、想像もしておりませんでしたが。
2枚目の写真は、2006年、クレモナに来て5年目の春、製作学校を卒業して、ラザーリ師匠の工房で修行に励んでいる頃です。
完成したホワイトヴァイオリンを見ていただいた時のスナップですが、さすがに、この頃は、いきなりヤスリで削られるようなことはありませんでした。
でも、ラザーリ氏の弟子であることを前提に、いろいろ厳しいご意見を伺うことができて、とても勉強になる時間でした。
この数ヶ月後に、初めて参加したヴィエニアフスキー・コンクールで第1位をいただくことになるのですが、優勝という結果はもちろん嬉しいものでしたが、審査委員長を務められたモラッシー氏に、初めて少しだけ認めていただけたような気がして、そのことが何よりも嬉しいことでした。
クレモナに憧れて、初めて訪れた日から7年後に、マエストロから表彰状をいただくことになるとは、それこそ夢にも思わない出来事でしたので、この時は完全に意識を失っておりましたが、後から写真を見て、マエストロと握手をしたことはやはり夢ではなかったと、、、もし時間を止めて宝物にできるのなら、この瞬間を永久に保存したいと思う写真です。
マエストロに少し認められたと思っても、実際には、その後も、工房にお邪魔するたびに厳しい意見をいただく日々でしたが、いつしか、現役を引退されて、工房には来られなくなり、なかなかお会いすることも難しくなりました。
でも、時々、会合などでお目にかかる時は、いつもとても元気なご様子で、少なくとも100歳を超えるまでは心配ない!と誰もが思っていたのですが、昨年末から体調を崩されて、83歳で天に召されることになってしまいました。
クレモナ郊外で執り行われた葬儀には、大雪の中、教会に入りきらないくらいの参列者が集い、しめやかにマエストロを送り出しました。
マエストロは天に召されましたが、その存在は、偉大な功績、そして温かい人柄とともに、永久に人々の心の中で生き続けることと思います。
さて、ガルネリモデルの製作記が滞ってしまい、失礼しております。
ウズマキ製作中の写真ですが、今回は、モノクロームでご紹介させていただきます。
季節の変わり目、皆様もお体にはお気をつけてお過ごしくださいませ。
by violino45 | 2018-03-18 07:23 | 日記 | Comments(4)
ジオ バッタ モラッシーさんとのお写真
思い出のお話、拝読させて頂きました。
マエストロとの出会いから現在に至るまで
菊田さんが、どういう気持ちでいらしたのか
心にストレートに伝わって来て、本当に素晴らしい方だったのだと改めて知ることができました。
楽器作りの精神、功績、技術などは
これからも引き継がれ、人の心の中に
で、いき続けていく、、
素晴らしいと感じます。
そういう方に出会えること、存在を知ることができること、正直に真っ直ぐに生きていくと、巡り合わせというのは、偶然ではないんだと言うことを感じました。
私も、自分が若いときに 受けた恩恵について改めて感謝し、それを 今度は
私がする立場になったという経験をしました。
自分にしてくださった事を、次の代に自分がしていく、、それが
人と人との繋がりで 身体は存在していなくても、その気持ちは伝わっていく と。
年齢だけは立派な大人ですが、これからも まだまだ成長していきたいですし、また それだけでなく 何か自分に出来ることを
しっかり その時点で 行っていく大切さを
改めて感じました。
いつも、心に染みるアップ
有難うございます。
お身体は呉々も ご自愛くださいませ。
温かく、深いお言葉をありがとうございました。
そうですね、マエストロからいただいた恩恵を、及ばずながら、次の世代に残していくことで、少しでも恩返しできればと思っております。
巡り合わせというものは、偶然のようでもあり、必然のようでもあり、不思議なものですよね。
でもやっぱり、Junjunさんのおっしゃるように、正直に真っ直ぐに生きていくことで、奇跡的な偶然が起きるチャンスも増えていくのだと思います。
今年もすでに4分の1が過ぎようとしていますが、これから年末に向かってイベントもたくさんありますので、どのような出会いがあるのか、今から楽しみに思っております。
春も間近ですが、季節の変わり目は体調も崩しやすいですね。
お体にはお気をつけておすごしください。
クレモナは、まだまだ寒い日が続いていて、桜の開花は少し先になりそうです。
私はなかなかバイオリンの腕前は上がらず
やはり週一レッスンだけではダメですね…私も来月早々に59歳になりサラリーマン生活も終盤になってきました。60からの再雇用も収入面で大変です。菊田さんみたいに夢を実現されている素晴らしいです。
羨ましい限りです。
そういえば自閉の三男のアートが5月にイタリアのカッラーラ市で開催される企画展覧会に出品されます。そちらからは近いのでしょうか?
菊田さんも気落ちされずますますご活躍ください。
こちらこそご無沙汰しております。
お心遣いいただき、ありがとうございます。
なんとか元気にがんばっております^^。
御子息のアート作品が展覧会に出品されるとのこと、すばらしいですね。
カッラーラは、クレモナとフィレンツェの間の、フィレンツェ寄りに位置する街で、クレモナからは200キロ弱くらいの距離の街ですね。
残念ながら訪れたことはないのですが、ミケランジェロも使った大理石の生産地のようなので、一度は、その石切場を訪れてみたいと思っております。
ご子息様が参加される展覧会のご成功をお祈りしております。