ニス塗り経過と、カテドラル、横板製作
ニス塗りも少し進んで、前回に比べて色が濃くなってきました。
この頃になると、色ムラを取る作業、「リタッチ」が必要になってきます。
アルコールニスは、絵の具やペンキと違って透明の液体(アルコール)に色が付いたものですので、例えば、完成までに30回塗り重ねたとして、1回目のニスは最後まで消えることはなくて、常に見えています。
なので、もし、ある時点である場所に、濃い色が付いてしまうと、それが最後までムラとして見えるわけです。
ムラになる理由は様々ですが、毎回、ハケに均一にニスを含ませることが難しいことと、バイオリンは複雑な曲面でできていますので、場所によって、ハケに加わる力を一定にすることが難しいことが主な原因だと思います。
塗りやすい場所はどんどん色が付いて濃くなりますし、ハケがスムースに動きづらい場所は、塗っているつもりでも、色がなかなか乗らずに白いままだったりします。
このムラを取るには、一つは、濃い部分のニスを根気よくはがす方法もありますが、多くの場合、色の薄い場所にニスを塗って、濃い部分に合わせていく作業が一般的です。
この作業では、いきなり濃い色のニスで塗りつぶすようにしてしまうと、さらにムラがひどくなって、収拾がつかなくなることがありますので、あまり濃くないニスを少しずつ重ねていきますが、アルコールニスは下の面を溶かしますので、しつこく2度塗りすると、逆にニスが溶けてしまって、一気にその部分が白くなったりします。
適度なリタッチ作業では、一度リタッチしてもほとんど何も変わらないのですが、そこをグッと我慢して、根気よく時間をかけて作業していくことが、リタッチを成功させる唯一の方法だと思います。
この辺りの説明は、なかなか一般的には分かりづらいと思いますが、一度でもアルコールニスを塗ったことがある方でしたら、実感されることだと思います。
こうして、ニスはリタッチをしながら、少しずつ色が濃くなっていくわけですが、あまりにも機械的にムラを無くしてしまうと、完成した楽器は平面的で、奥行きの感じない仕上がりになってしまうことがありますので、ニス塗りはなかなか奥が深くて難しいです。
たとえば、風景画を描く時に、晴れた空だからと、空色の絵の具を使って一色で塗りつぶしてしまったら、まったく奥行きの無い絵になってしまいますが、それと同じことかもしれません。
色の濃さや、色合い、そのほかいろいろな要素が微妙に揺らぐことで、暖かみのあるニスの楽器になると思います。
ただ、揺らぎと、ムラ、その違いはどのあたりにあるのか、、、非常に難しい問題ですし、単なる、色の濃さのばらつきとは違う、ある意味芸術的なセンスも必要だと思いますし、木材の加工以上に、製作者の性格や人間性のようなものが出てしまう部分のような気もしています。
私が、ラザーリ師匠の楽器に魅せられて、クレモナまで来てしまったのも、やはり、彼のニスの仕上げを勉強したいという理由が大きかったです。
長々とニスについて書きましたが、ニスは、美観だけではなくて、音や、耐久性、他にも沢山の要素を追求しなければいけませんので、書き始めると、ブログではとても足りないというところが正直なところです。
でも、本を書けるほどの知識も経験も無いので、、、とりあえず、時々、思いついたことを書いていこうと思っています。
さて、カテドラルですが、横板の貼付けです。
前回貼付けたブロック材を、横板の形に削ります。
ベンディングアイロンで、横板を曲げます。
手前に黒く見えているのが、アイロンです。
触ると、熱いです、、というか、やけどをします。。
当て木をあてて、クランプで締め付けます。
このあたりの方法は、流派によっていろいろあるようです。
センター部分が、完成です。
その後で、上下部分のブロックを削り、横板を曲げて貼付けて、横板の完成です。
あ、何か居ますね。
天使、、ですが、なぜかバンジョーを弾いていますね。
さらに、ノリノリです。
おまけ画像は、こちらです。
子供の頃、実家の隣が駄菓子屋だったので、お小遣いをもらうと、すぐに何かを買いに行っていましたが、、定番は、これでした。
実はこれ、友人のバイオリン製作家、大久保さんから先日、駄菓子屋さんグッズを大量に送っていただいたのですが、、その中の一つです。
全てが懐かしいものでしたが、この、クッピーラムネは、やはり、昭和中期世代にとっては、前田のクラッカーとともに、思い出の品ではないでしょうか?(もしかして、名古屋地区限定?)
by violino45 | 2011-02-20 07:55 | 製作記 | Comments(14)
そろそろ完成間近なのでしょうか?
ニスの具合でも楽器の印象はかわってきますよね。
楽器によって色の具合を変えたりされているのですか?
モデルにした楽器の色も参考になさったりするのでしょうか。
カテドラル、また形が見えてきましたね。
どんな楽器になるのかわくわくします。
新・ノリノリ天使ちゃんもとってもかわいいです。
内型の穴は横板の貼り付けのときに活躍するんですね。
内型の穴も流派によってあけ方が違ったりするんでしょうか。
横板の材質は裏板と同じですよね。
裏板と同じ材料からとられているのですか。
ニスの塗られた上の楽器をみると、裏板と横板の木目が調和していてとても美しいなと思いました。
なんか質問攻めですみません。
クッピーラムネ、わたしも好きです。
かわいいパッケージもお気に入りです。
右下に、「原材料として卵の成分が含まれています。」という表示がはいっているところに、時代の変遷を感じます。
最近の食品はこういう表示が必要なんですよね・・・
かわらないようで、時代とともにかわっているところもあるんですね。
そうですね、新作バイオリンにニスを塗るときは、白い木肌の上に色を重ねますが、年月が経過した楽器は、木の地肌そのものが濃い色に変化していますので、それだけでも風格が出てきますし、さらに、ニスそのものも良い状態を保ちながら経年してくれれば、良い風合いの楽器に成長してくれると思います。
実際のところ、ストラディバリなどの名器のニスの色がすばらしいのは、半分くらいは、濃い色に変化した木材そのものも一緒に見ているということですので、私の楽器も、100年後くらいにどのような雰囲気の楽器になっているのか、見てみたい気持ち半分、怖さ半分というところです。
ニスの色は、もちろん、元になったモデルのイメージから大きくは離れないようにしますが、それよりも、使う材料のイメージによって左右されることが多いです。
なので、例えば、もし薄い色のニスの楽器を作ろうと思ったら、その時点で、選ぶ材料も検討することもあります。
ただ、材料はやはり音に関する部分を優先しますので、見た目は、二次的な要素にはなりますが。。
内型の穴は、流派というよりも、製作者によっていろいろと工夫されていると思います。
私は、ラザーリ師匠のやり方どおり、シンプルな穴だけですが、人によっては、穴同士をつなげたり、ストラディバリの時代そのままに、ほとんど穴を開けない人もいます。
横板は、裏板が厚くて余裕があるときは、同じ材料で取れますが、通常は、良く似た材料を探して使うことも多いです。
カテドラルは、裏板から横板を取りましたが、でも、同じ材料だから100%ベストマッチするとは限らないところが難しいです。
そうですね、原材料表示は、この数十年で大きく変わったことの一つですね。
いつかは、バイオリンにも、原材料表示をする時代が来るのでしょうか、、。
ヴァイオリン製作って同時にいくつもの要素を追求しなくてはならず、最後の最後まで一瞬も気が抜けないのですね。 加工は技術性、ニス塗りは芸術性を問われるようなものなのでしょうか・・・さらに「響き」も重要となってきますので、その辺のバランスはとても難しいのだろうと想像しております。
前に塗装の厚さや固さは、ものすごく音に影響するとおっしゃっていましたが、未完成の楽器の音を確かめるのは、叩いて判断されるということになるのでしょうか・・・
新しい天使が仲間入りし、ますますパワーアップですね!
前田のクラッカー・・・実は食べたことがありません。
おうちの横が駄菓子屋さん
子供なら誰もが憧れる環境ですね
新しい楽器のニスも、歳を経た楽器のニスも
どちらも魅力を感じる四十路おじさんとしては
一時期、アルコールニスよりもオイルニスの人気が高くなり
「え゛~なんで~、アルコールニスの方が繊細なのに~」っていたこともありました。
菊田さんの楽器を初めて拝見した時
ニスがアルコール系だったことがとてもうれしかったことを
思い出しました。
今回の菊田さんのカテドラルの裏板の風景は
とても端正で、安心感があります
オイルニスは、経年による色の変化を
コントロールできるそうですが
(と私の楽器の製作者の方はおしゃってました。私の希望もあり、紫外線処理もしませんでしたので、この数年で薄いオレンジ色からだんだん、濃いオレンジ色に変化してきています。)
アルコール系のニスの場合はどうなんですか?やはり、オイルニスのようにある程度経年による色変化をコントロールできるのでしょうか?
菊田さんの楽器の色に対する、今のイメージを聞けたら嬉しいなぁ なんて思っていますです。
東京は、梅の香りが楽しめる季節になりました。 春はもうすぐです。
クッピーラムネ、私も子供の時の駄菓子の定番でした!
あとは、うまい棒だったり、どんと焼、キャベツ太郎。。。
あ、うちのおチビも、クッピーラムネ大好き(^o^)です。
平成世代にも、着実に受け継がれてますね~
そうですね、木材の加工そのものも、技術的な要素と芸術的な要素が複雑に絡み合っているような感じですし、ニスは、さらに化学的な側面も深く影響してきますので、、なかなか全てを極めるのは難しい、、というか、製作者の数だけ、ニスの悩みは存在するのかもしれませんです。
もしかしたら、木工は木工、ニスはニスという感じで分業するくらいが、一生をかけて追求するテーマとしてはちょうど良いのではとも思えてくるほど、弦楽器製作を極めるための課題は多いと感じています。
でも、分業してしまったら、やはり製作は面白くありませんので、皆、頭を悩ませながら、今日も木を削り、ニスを塗り続けているのだと思います。
弦を張って、音を出す時の感動は、やはり格別ですからね。
ちなみに、製作者は良く楽器を叩きますよ。
ホワイトの状態は、本当に良く響きますが、少し暴れた感じがするのに対して、ニスを塗っていくと、落ち着いた感じに変化していきます。
でも、ニスが乾くと、また違う響きになるので、面白いです。
お久しぶりですが、お元気そうでなによりです。
クッピーラムネ、やはりお子様たちには人気メニューですよね。
あの、甘酸っぱい感じが、、あとを引くんですよね。
あ、前田のクラッカーは、最近リバイバルもされているようですが、やはり、昭和中期に限定される商品だと思いますので、TAKOさんの年代にはなじみがなくて普通だと思います。
いつか、機会がありましたら、試してみてくださいませ。
隣が駄菓子屋さん、、、たぶん、私の人格形成に多大な影響を与えていると思います、、これ。(幸せな幼少時代、、、、)
そうですね、新しくても古くても、良くできたものは魅力的ですよね。
そして、オイルとアルコール、どちらにも長所と短所がありますが、上手く塗れたニスは、どちらも美しく、耐久性もあって、音も良いと思います。
私は、オイルニスに関しては詳しくありませんが、アルコールニスも経年によって色は変化しますので、上手くコントロールすることで、木材そのものの色の変化に対応していくことによって、古くなった時に、自然な風合いになることが理想だとは思っていますが、それは、とても難しいことだと感じています。
むしろ、自然な樹脂を使ったニスの色は、退色して薄くなる傾向がありますので、どちらかというと、できるだけ退色しないようなニスを作って、塗るようにしています。
私自身の最近の傾向は、あまり濃い色のニスは塗らずに、木材が良く見えるようにしていますが、これは特に強いポリシーがあってのことではなくて、自然な流れの中でそうなっていますので、また、濃い色のニスへと変化していくこともあるかもしれません。
梅のかおり、、いいですね。
気がついたら、3月はもうすぐですね、桜の季節がまたきますね。
そうですか〜、かとうさんも、駄菓子で育ったのですね、、(違う)
駄菓子屋さんって、お菓子だけではなくて、いろいろなおもちゃも売っていますよね。
恐竜のフィギュアなど、、無意味に集めていたことを、ふと思い出しました。
たぶん、こういう経験が、マニアックな性格を形成していくのかも、、ですね。
ところで、、クッピーラムネって、名古屋のメーカー(カクダイ製菓)のようですね。
やはり、この親近感は、地元だから??
自分でも忘れてしまうほどお久しぶりです。。
今修理で広い範囲のリタッチをしています。すごく難しくて、
染料と顔料と透明ニスを使って、奮闘中です。ムラもすごいできて
なんかスパイラルに陥っています・・・
リタッチについては染料・顔料本当に興味深くて
もっともっと勉強しないとだめだなぁと思います(>_<)
クッピーラムネは私も懐かしいお菓子の一つです!
人生の半分くらいは愛知に居たので・・・(名古屋とはニアピンですが・・・)
おひさしぶりです。
修理の現場でお元気で活躍されているご様子、嬉しく拝読しました。
修理の世界でのリタッチは、また別の難しさがありますよね。
お互い、奥の深い世界で、スパイラルに捕まりつつ、、、がんばっていきましょう。。
で、いつか、内緒でノウハウを教えてくだサイ。。
なるほど、、やはりクッピーラムネは愛知県方面がベースなのですね。
でも、日本中であのリスとウサギのパッケージは愛されていて、、これはやはりすごいことだと思ってしまいますね。