新しいバイオリンの、モデル

ホワイトバイオリンが完成して、ニス塗りに入りましたので、次のバイオリンの製作に入ります。

今回は、ご依頼主様からのリクエストがありまして、1707年製のストラディバリ、「カテドラル」をモデルに製作することになりました。

ラザーリ師匠に習い始めた2003年以降、ストラディバリモデルとしては、1703年モデルと、最近はずっと1705年モデルを作り続けてきましたので、それ以外のストラディバリモデルのヴァイオリンを製作するのは、7年ぶりになります。

「カテドラル」、といえば、私とBSジャパンの番組でご一緒いただきました川久保さんが長年愛用されていたストラディバリということで有名ですが、今回、その楽器をモデルに製作できるということは光栄ですし、また、畏れ多いことでもありますが、昨年末からの心境の変化?もあったこの時期に新しいモデルに挑戦できるということは、やはり良い機会だと思いますので、良い楽器ができますよう、精進したいと思っております。

実際に製作するにあたり、モデルとする写真が必要なのですが、この楽器の実物大の写真が手に入らず、困っていたところに、友人のい〜ぐるさんが所有されている書籍に少し小さめの写真が載っていたことを思い出し、高画質でスキャンして送っていただきました。
ありがとうございました。
新しいバイオリンの、モデル_d0047461_638451.jpg

この、カテドラルですが、1707年製作ということで、いわゆる黄金期の楽器に比べて、全体に丸みを帯びていますし、ボディのセンターバウツ、いわゆる「C」の部分がとても細い楽器です。
たとえば、黄金期を代表する、「クレモネーゼ」と比較すると、5ミリほどこの部分が細いです。
上下の部分の幅は、あまり変わりませんので、プロポーション的に、変化の大きい楽器になります。
全体のシルエットとしては、ストラディバリの中でも美しい楽器として有名な、1704年製の「ベッツ」に良く似ていますので、もしかしたら、同じ型を使って製作されたのかもしれません。

さて、写真が手に入ったので、コピーする作業に入るのですが、今回は、裏板の左側の半分をコピーして、左右対称に広げる方法にしました。
もちろん、実物の楽器は、300年の間にかなりすり減って、アウトラインが変形していますので、その部分は、パーフリングのラインを参考にして、再現していきます。
こうして、モデルとして切り抜いたものが、こちらです。
新しいバイオリンの、モデル_d0047461_6564152.jpg

モデルをコピーするといっても、物理的なコピーはアウトラインだけですので、ずいぶんあっさりとしたものになってしまいますが、、、でも、この、アウトラインが少しずれただけで楽器の印象は大きく変わりますので、とても重要な作業になります。
ですが、アウトラインをコピーしただけでは、カテドラルの雰囲気にはなりませんので、写真を見ながら、いかにしてその雰囲気を再現するかが、製作のポイントになってきます。
新しいバイオリンの、モデル_d0047461_7141847.jpg

左側(緑色)が、いつも使っている、1705年のモデルです。
ラザーリ師匠から受け継いだ宝物のモデルなので、一生使い続けると思いますが、今回の、カテドラルも、ストラディバリモデルのバリエーションとして、私のレパートリーとなればと思っています。
それにしても、、並べて見ても、ほんのわずかの違いですね。

今日は、取り急ぎ、ご紹介までということで、、このへんで。。
次回は、型の製作と横板をご紹介します。

by violino45 | 2011-01-29 07:14 | 製作記 | Comments(6)

Commented by かとう at 2011-01-29 13:40 x
菊田さん、こんにちは〜

特定のストラドをモデルに制作されるのって、もしかして初めてでしょうか?
それにしても、カテドラル、菊田さんとの縁を感じさせるオーダーですね。
ご依頼主の方も、強い思いを込めてこのモデルを選ばれたのでしょうし、良い楽器となりますように!

完成後、川久保さんに弾いて頂く機会があったりすると素敵でしょうね。。。
Commented by エクレア at 2011-01-29 22:34 x
こんにちは。
「カテドラル」とても美しい楽器ですね。
菊田さんにはきっと、型からすでに楽器の完成像が見えているのでしょうね。
今年は菊田さんがクレモナに行かれてちょうど10年目にあたるのでしょうか?
今回も素敵な作品になりますように。
かとうさんも書かれていますが、この楽器が完成した後に川久保さんに弾いていただく機会があると本当に素敵ですね。

少し前のお話なのですが・・・前回のブログの白木のヴァイオリンの記事を母に見せたところ、美しい楽器ねぇという感想の後に、ノリノリ天使ちゃんがかわいい!ほしい!と。
日本でも手に入るんでしょうか。コメントで奥様のプレゼントのイタリア産だと書かれていましたが、
きっと職人さんがつくられた1点モノですよね。
Commented by 菊田 at 2011-01-30 06:32 x
かとうさん、こんにちは。

はい、、ラザーリ師匠の弟子になる前は、クレモネーゼをはじめ、いろいろなモデルに挑戦していましたが、ラザーリさんに習う時にコピーさせていただいた2つのモデルがとても良い型なので、ある程度、製作技術が落ち着くまではこの型を突き詰めようと考えて、他のストラドモデルは使わずにいました。

でも、そろそろ新しいバリエーションに挑戦しても良い時期だとは思っていましたので、そのタイミングで、カテドラルの製作を希望されるお客様がいらっしゃったのは、やはり、あの番組からの流れの中で、ご縁を感じますね。

川久保さん、、そうですね〜、、、しばらくお会いしていませんが、、完成したら、連絡してみましょうかね、、、。
Commented by 菊田 at 2011-01-30 06:55 x
エクレアさん、こんにちは。
カテドラル、、その美しさをそのまま私の楽器の中に融合できるかどうかは、、正直なところ、未知数な部分もありまして、、新しいモデルを製作するときは、心臓に悪い瞬間が続きますが、、でも、製作者として楽しい、ワクワクする時間でもあります。

クレモナに来たのは2001年9月ですので、、今年の9月で10年になります。
この節目の年に、新しいモデルに挑戦できるのは、やはり嬉しいですし、気が引き締まります。
川久保さんに弾いていただければ、私も本当に嬉しいですが、、、、本物のカテドラルは、10年間も川久保さんと一緒にいたわけですから、、やはり畏れ多いですよね、、、でも、もちろんご報告はするつもりです。。

ノリノリ天使ですが、、
イタリアでは、こういう天使の置物はそれこそ町中で見つけることができるのですが、、、楽器を弾いている姿は意外と少なくて、、アンティーク市で時々見つけても、、微妙に顔が恐かったりして、、なかなか連れて帰るまでは至らないです。
この天使は、私の奥さんがクレモナ以外の町で見つけたもので、珍しく顔が可愛かったので、、連れて帰ってきたようですが、10年間で初めてのことでした。。
Commented by kawailaw at 2011-02-16 23:06 x
こんばんは。カテドラル、写真で見ても、やっぱり、何か違うものを感じさせられます。
ところで、銘器って、往々にして、左右が非対称だったりするような気がします。こちらも、写真では、そう見えます。右半分をモデルに作るのと、左半分をモデルに作るのと、左右全体をモデルに作るのと、で、ずいぶん違ったモデルができるようにも思います。この辺り、如何でしょうか?
Commented by 菊田 at 2011-02-17 05:41 x
kawailawさん、こんにちは。
そうですね、古い楽器は左右が対称でないものが多いですし、そのことが、楽器全体の魅力になっていることも多いですので、コピーモデルを製作するときはその点が悩みでもあります。

たとえば、アンティーク仕上げを前提とした、完全コピーを作る場合などは、左右、しかも表と裏もすべて忠実にコピーして、横板もそれに合わせて歪ませたりもしますが、あくまでも、新作として製作して、さらに、レパートリーとして将来も継続して製作する予定の場合は、やはり、毎回左右が非対称になるのはあまり良い事ではない気がしますので、裏か表、そして右か左かの、4者択一でモデルを選定します。
どれを選ぶかは、やはり、その楽器の魅力を最も表現できる可能性の高いラインを持った部分なのですが、これも、実物の写真を見ているときと、実際に型紙になった時、そして左右に開いた時に印象が変わってきますので、十分に予測しますし、実際にデザインを書いてテストもします。

こうして熟考を重ねながら製作した楽器は、不思議と、オリジナルの雰囲気を十分残して完成するものなのですが、それでも、楽器の姿になるまでは、初めての楽器はいろいろ不安なものではあります。
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